ぐんまリハビリパーク木橋「猿橋」の計画と設計

写真−1 寺沢川猿橋全景

群馬県前橋土木事務所長 水野 尚武

(株)日建設計シビル     大泉 楯

                  鳴海 祐幸

まえがき
1.リハビリパークの概要 1−1 当公園の目的
1−2 施設概要
1−3 人道橋の位置づけ
2.猿橋の計画と設計 2−1 橋梁の形式
2−2 構造設計
2−3 腐朽対策
あとがき
まえがき
ぐんまリハビリパークは、赤城山麓に源を発する寺沢川が上毛電鉄と交わるあたり、前橋市亀泉町に建設された群馬県立心臓血管センター付属の公園である。この公園は、病院長の公園整備に関する長年の熱意に賛同し、群馬県前橋土木事務所が主体となって整備したものである。猿橋はこの公園内の寺沢川に架けられた二橋のうちの一つで、公園を象徴するに相応しいデザインと特徴ある構造特性をもつ木造200110月にリハビリパークの供用が開始されたのを機に、猿橋のデザインと構造システム等について概要を報告するものである。

1.リハビリパークの概要

 1−1 当公園の目的

 このリハビリパークは心臓病や生活習慣病の患者、手術患者、高齢者、身体障害者等を対象とし、運動療法によって身体機能を高め、満足すべき日常活動と生活の質をもって社会復帰を果たし、また患者の心を癒すことを目的とする健康医学的な公園である。(上流側の整備に引き続き、多自然型親水河川改修の一環として整備した。)また、この目的を阻害しない範囲で患者以外の一般市民も利用することができる。

 1−2 施設概要

図−1 公園全景鳥瞰図 ((株)田中建築事務所提供)

 図−1に公園の鳥瞰図を示す。細長い敷地に寺沢川をうねるように改修配置し、川や両岸の緩やかな傾斜地を使って、心臓リハビリ歩行コース各種4ルート、休憩コーナー、芝生広場、さまざまな植栽等が設けられ、公園の効果として下記をあげることができる。

・川の流れやせせらぎで心の安らぎが得られる水辺の散策

・四季折々の花が咲き乱れる散策路での歩行治療

・ゆったりした芝生広場でのグループトレーニング

・緑と川のほとりでゆったりとした心身の休息

1−3 人道橋の位置づけ

 公園内には上流側と下流側の二カ所に橋を計画し、この両橋で結ばれるループが最も長いリハビリ歩行コースを構成している。二橋とも自然度の高い景観に調和するよう木を用いるものとし、非常時を想定して人道橋ではあるが大型救急車一台(5t)の通行を可とする設計とした。

 1)上流側「ふれあい橋」

 公園の植栽は上流に向かって徐々に密度が高まるような配置とし、ふれあい橋周辺では雑木林をつくっている。ふれあい橋は林の中に静かにたたずむシンプルな橋というイメージで、主構造は鋼製とし、床版・高欄等を木造とする控えめな印象とした。

2)下流側「猿橋」

 下流側の橋は公園からもよく目立ち、鉄道やリハビリ棟からもよく見える場所に位置する。したがって公園のシンボルとなり、かつ訪れる人々を迎え入れる橋として位置づけ、日本古来の形式を現代風にアレンジした全木造の刎ね木橋型ラーメン橋というユニークな形式を採用した。

2.猿橋の計画と設計

2−1 橋梁形式

1)木橋の意義

わが国は古くから木の国と言われながら、明治以降の近代化とともに木橋は鉄とコンクリーに置き換えられ続け、1950年代をもってほとんど消滅し、伝統的な木橋技術も特例を除いてほぼ途絶えた。しかし温暖化など深刻な地球環境悪化の兆しを背景として、ここ十数年前から木材の環境保全における役割とやさしい質感が再評価され、再び木を用いる機運が高まり、この十数年の間に約700もの近代木橋が架けられた。また、群馬県でも森林保護の立場から、県産材の活用を奨励しているところである。

木材の主な特性を、森林の効果もあわせて挙げると次のようである。

  1. 森林は大気中の炭酸ガスを吸収し、木質材料の製造にあたっても発生炭酸ガスや消費エネルギーが極端に少なく、地球温暖化防止に寄与する材料である。
  2. 森林は洪水や土砂崩壊の防止・水資源の供給等、地域的公益機能をもつ。
  3. 伐採利用と植林を繰り返すことにより、資源として枯渇することなく数十年の周期で循環する。
  4. 柔らかさ・温かみなど、天然材料独特の質感をもつ。
  5. 製材だけでなく集成材・LVL・チップボード等、多様な形態と均質性をとり得る半工業材料である。
  6. 比強度が鋼やコンクリートより格段に大きい。
  7. 割れ・反りなど変形し易く、耐磨耗性にも劣る。
  8. 腐朽・虫害など耐久性に問題がある。
  9. 燃える材料である。
  10. 鋼構造やコンクリート構造に比べて価格が高い。

 このように構造材料として幾つかの欠点をもつがそれを上回る地球規模の価値があり、これが木橋の意義である。さらに、現場周辺の材料を用いてものを造るという土木の原点に立つなら、地元産の木材を利用するのが理想である。

2)赤城山と甲斐の猿橋

 さて、本公園の背景には雄大な赤城山がそびえている。赤城山といえば国定忠治が思い起こされるが、役人に追われた忠治が甲斐の猿橋(写真-2)の桁裏にひそみ、発見されるや眼下の谷に飛び込んで危うく難を逃れたという伝説がある。このことから赤城山→国定忠治→猿橋と連想され、本公園の橋の形態を刎ね木橋型と決定する一つの動機となっている。なお、現在の甲斐の猿橋は木装鉄骨造である。

真−2 甲斐の猿橋

3)甲斐の猿橋との異同

本橋を刎ね木橋型としたが甲斐の猿橋と同型式の模倣ではなく、幾つかの工夫をこらした近代木橋である。両者における形態と構造の異同を図−23に示す。

図−2 本橋姿図
図−3 甲斐の猿橋姿図
4) 構造システム

 刎ね木橋は木材を橋台部に埋め込んで片持ち梁(刎ね木)をなし、その部材で上部の桁を支持するキャンティレバー構造である。この形式は刎ね木部材が主構で、それによって支えられる桁は床組みとして機能する。したがって、刎ね木部材が橋の安全性を一手に担っている点が特徴的であり、数年前に起こった腐朽菌による木橋崩壊事故等を考え合わせると、この直線的な崩壊過程に一抹の不安がある。そこで、より安全性が高く将来の部材更新も可能なよう下記のような構造システムをとることにした。このシステムの採用により、本橋ならではの独特の形態が得られた。

  1. 主桁を刎ね木とともに主構に組み込んでラーメンとし、剛性を高めるとともに崩壊過程を複次化する。
  2. そのために刎ね木基部を固定支持とし、主桁と刎ね木を剛結とする。
  3. 将来の部材更新が可能なよう、刎ね木基部の固定方法をベースプレート・アンカーボルト式とする。
  4. 三段重ねの刎ね木部材を単なる重ね梁ではなく積層桁として合成し、剛性を高める。
  5. 主構に斜材を組み込んでトラスとなすが、斜材格点部の密着不完全性を考慮して大変形時に効果を発揮するフェールセーフ部材とする二段構えの構造システムとする。
2−2 構造設計
1)2つの構造モデル

 本橋の構造一般図を図−4に示す。前記のように、木橋は木材の体積変化や形状変化、あるいは連結金具に接する部分の材質軟化等によって金具との間に隙間が生じ、継手の緊結度が失われることがある。そのため定期点検時に金具の追い締めを行うことが不可欠とされるが、構造によっては設計上の配慮もまた必要となる。すなわち、部材相互の継手部または部材断面の連結部にある程度の弛緩が生じても安全性を損なうことのない構造設計が必要になる。したがって設計にあたっては建設直後の完全な構造系をモデルとするばかりでなく、継手部に弛緩が生じて到達する不静定次数の低い構造系をもモデルとし、ダブルチェックで安全を確かめるのが確実な方法である。

 このような2段構成のチェック法を用いたのは、発見されにくい部位での前記したような木材特有の腐朽や、予測以上の変形に対する安全確保のためである。

図−4 本橋一般図

2) モデル設定

設定−1 完成系モデル断面力算出用の構造系(図−5)完成系モデル化にあたっての仮定は、以下に示すものである。

  1. 主桁と橋台の結合部はスペースの関係で十分な剛性ある定着部を構成できず、ピン結合と仮定する。(節点1,40)
  2. 刎ね木と橋台の結合部は剛性ある定着部を構成でき、剛結と仮定する。(節点2,41)
  3. トラス斜材両端部は部材納まり上タイトな格点構成ができないので、完成系としては斜材効果を無視する。
  4. 主桁と刎ね木先端の結合部は剛に結合され、変形のない剛域を形成すると仮定する。(節点15,16,17および25,26,27の三角部)
  5. 刎ね木重ね部材は積層桁(合成構造)として一定の剛性を保持するものと考え、過去の実績から完全合成の85%の剛性を有効と仮定する。…「常磐橋の設計と施工」橋梁1995.7より 

設定−2 経年変化チェック用モデルの構造系(図−6)

経年変化時のモデル化にあたっての仮定(継手の弛緩を考慮)は以下に示すものである。

  1. 主桁と橋台の結合部はピン結合と仮定する。(節点1,40)
  2. 刎ね木と橋台の結合部は剛結と仮定する。(節点2,41)
  3. 主桁と主桁の継手部は剛結合からピン結合に変化すると仮定する。(節点42,43)
  4. トラス斜材は継手部弛緩に伴う比較的大きな変形によって格点の密着が期待でき、圧縮力に対して斜材効果を発揮すると仮定する。
  5. 主桁と刎ね木先端の結合部は剛域からルーズな結合に移行し、部材相互がピン結合に変化するものと仮定する。(節点15,16,17および25,26,27の部分)
  6. 刎ね木重ね部材は全体的には積層桁として完全合成の85%の剛性を発揮するが、局所的には集合部材(重ね梁)に弛緩変化しても差し支えないように応力度照査するものとする。

 3.において、主桁と主桁の継手部が剛結合からピン結合に変化すると仮定したのは、この部分で木材の体積変化により継手のドリフトピンが緩み、剛結合の仮定が崩れることを想定してのことである。

設定−2の状態は一種の異常事態で、維持管理が適切になされている場合には考えにくい状態であるが、急激な破壊を避けるための設定である。設定−1および設定−2の計算結果を図−7、8に示す。

これら2つのモデルの結果を比較することにより、斜材の効果が刎ね木の付け根部分の曲げモーメントの減少に寄与していることがわかる。また、継ぎ手部における仮定ピンの発生の場合においても、支間中央におけるたわみ値は増加するが全体崩壊には至らないことがわかる。

  図−5モデル図1
  図−6 モデル図2
  図−7 設定−1の計算結果
  図−8 設定−2の計算結果

得られた結果より、いずれの状態においても、部材応力度が許容値を超過しないことが確認できる。これは、本構造が前記した避けるべき直線的な崩壊過程を辿らないことを意味している。

 参考に、継手部詳細図その他を図−9,10に示す。

図−9 詳細図−1(刎ね木付け根部)省略
図−10 詳細図−2(主桁・刎ね木結合部)省略

3) 振動特性と振動恕限度

 橋梁における振動恕限度については、これまで多くの研究事例があるが、本橋のように部材同士のくい込みや継ぎ手部の弛緩が考えられる木橋の場合に応じた研究は詳細にはなされていないのが現状である。このような状況を鑑み、本橋においては、主に建築構造物においてよく用いられるマイスター曲線(「構造物の振動に関する居住性能評価指針同解説」・日本建築学会より)を参考に、土木構造物を対象として研究された「振動と人間・橋梁振動の評価」・橋梁と基礎79-8 を参考資料として、振動恕限度の検討を行い下記の結果を得た。

固有振動数:3.2Hz、活荷重たわみ:32.2mm(= L/805)

 図−11 マイスターの振動恕限度曲線省略
上記プロット結果より、本橋の振動恕限度については、許容の範囲内であると考えられる。また、別の検討手段として、「設計時における歩道橋の振動使用性照査法(土木学会論文集No.471/1-24)」を参考に、振動感覚評価を用いる方法でも検討した結果、同様の結果を得た。

2−3 腐朽対策

 木橋は良好な維持管理を前提とする構造物ではあるが、設計上の配慮によっても耐久性に大きな差が生じるといわれる。本橋も定期点検と維持管理を前提とすることに変わりはないが、下記のような腐朽対策をとっている。

1) 樹種選定

部材更新の容易な高欄については県産杉集成材を用い、更新が容易でない主構関係は耐久性に最も優れるボンゴシ材を用いた。ボンゴシは耐久性だけでなく強度上からも必要とされた。

2) 木部排水、木口保護、防水シート、シーリング

敷き板の跳ね出し長を大きくして主桁の雨がかりに配慮するなど、全体的に雨水の滞留し難い構成とした。また、刎ね木先端や横繋ぎ材端部など、材端木口は銅板でキャップを施した。

滞水の恐れのある主桁天端、根太天端等についてはアスファルト系防水シートを敷設した。木材上面にあけた孔、鋼板割り込み部のスリット等については防水シーリングを施した。

3) 防腐剤、耐腐朽剤

杉材に対してはAAC防腐剤注入、および表面保護塗料塗布とし、注入不可能なボンゴシ材に対しては表面保護塗料塗布とした。

4) 鋼材の防錆

継手に使用する鋼板・ボルト類はすべて溶融亜鉛メッキ製品、またはステンレス製品とした。

架設中の写真を以下に示す。

写真−3 ジョイント部鋼板

写真−4 主桁建込み

写真−5 防水シート貼り付け

あとがき

 本橋梁は200110月に竣工したぐんまリハビリパーク内に架橋された二橋のうちの一つで、珍しい刎ね木橋の全木造ラーメン橋である。本文では本橋梁のデザインと設計に関して報告した。同種橋梁の計画や設計の参考になれば幸いである。おわりに、本橋梁の実現に努力された、前橋土木事務所をはじめ関係者の方々に深く感謝いたします。